2017/04/24

「明るい庭」


昨年竣工した「寺地のコートハウス」、暖かくなったので造園工事を再開しました。
今回の造園デザインは中村彩さん、
「寺地の家・2011年」「伏見台の家・2012年」に続いて3度目のコラボレーションです。



建築と造園はひとつのものです。
たとえば京都の禅寺などでは、床の間や襖絵や庭やさらに遠くの景色までもが、対話したり競ったり共鳴したりと、つながったひとつの全体として計画されているように思います。
以前は全て自分でデザインしていたのですが、最近は中村さんに「庭を預ける」という方法で予定調和を超える効果を期待しています。
道路から見た外観は、手前にある生垣・樹木・輪郭・柱梁・外壁・中庭という様にいくつかの薄い層が重なって奥行きを作っています。
中庭は静かで、四方がガラスで囲われています。
ヤマボウシの株立ちは家族の一員のように、ひとつの部屋を与えられているようです。
四季を通じて樹を身近に感じられる暮らしが実現しています。


2016/09/01

「旭川 DESIGN WEEK」 森の家具工房










































「北の住まい設計社」   @北海道上川郡東川町


「すごくいい所だから、旭川に行ったらぜひ訪ねなさい、」
Nさんに薦められて駅から車で30分、水田や雑木林を抜けるとかわいい建物に到着。
そこは家具の工房とショップやカフェを併設する素敵な場所でした。

まずは椅子や棚などの家具を拝見した後、その製作現場を案内していただくことに。
見学は原料となる木材の乾燥場からスタートです。














































やはり地元の木を使おうということで、ここで使われる木材は全てが道産材、写真は厚沢部町のイタヤカエデです。

木の香りを深呼吸、整然と並ぶ姿は現代アートのよう。

木は乾燥すると収縮するため、伐採から家具になるまでに長い時間をかけて乾燥させます。
原木を製材したものをここで最低1年以上乾燥させ、含水率を20%まで落とします。




































ある程度乾燥した板は次に乾燥機に入れますが、ここが実は非常に難しい技術を要するそうで、データにもとづいて温度・湿度を調節しながら約3週間かけて、含水率を8%まで落とします。

建築材料の場合、含水率は18-20%程度ですから、これは非常に厳しい数字です。
暴れたり捩れたり、狂いのない家具を作るのに必要な条件とのこと。





























乾燥木材は外気に触れると含水率が徐々に上がってゆくので、目標2年以内にこれらの木を使い切りたいそうです。

板はそれぞれの部品サイズに加工されストックされています。
そして組立工程へ。




























































家具の組み立ては隣接する「廃校」を改修した建物の中で行います。




体育館や教室での作業風景。

さきほどの林の中の工場もそうですが、作業と風景がつながっているというか、嘘がないというか、身の丈にあっているというか・・・

とにかく自然な雰囲気の中にセンスが光ります。










































組み立てた家具は塗装工程に入ります。

塗料は 「エッグテンペラ」、手触りのよいマットな仕上げと深い色合いが魅力的です。
西洋の古典絵画にも使われる材料で、水・油・卵に顔料を混ぜたものをスプレーで塗装します。
塗装された脚と無垢の天板の対比が軽さを生んでオシャレです。




































完成した家具はギャラリ-に展示、隣接するショップで販売されています。

工房は全て撮影OK,
ここでしか出来ないことなのでどうぞどうぞという、自信にあふれたものでした。

もしかしたら、一見同じような家具はどこかにあると思うかもしれません。

しかし、「旭川家具」の特徴はその地域の中で人や技術だけでなく、木を育てる豊かな自然を持っていることです。

製品の背景がこの豊かな工房を作っていて、たぶん旭川はものづくりの町として今後ブランド化に成功するでしょう。

林業が衰退し、外材に頼りきる日本においてこれはとても困難なことで、暮らしと生産と風景が地続きのまちは貴重だからです。

次回は工房のレストランへ。
また来たい街ができました。





2016/08/29

「旭川 DESIGN WEEK」 すばらしい人











































「旭川 DESIGN WEEK2016」 では国内外のデザイナーに参加を呼びかけていて、結果的に街の交流人口を増やすことに成功しています。
デザインの最先端で活躍するデザイナーが1年に一度、ここで顔を合わすのを楽しみに出掛けてくるのだそうです。そしてその場に私たちも立ち会え気軽に話せることは、なんという贅沢でしょう。


























深澤直人さん。
今年、カンディハウス社から「KAMUY」を発表、手ざわり・脚ざわり・腰ざわりのよい、時間に耐えるすばらしい椅子でした。

深澤デザインとしては、「無印良品」のCDプレーヤーや、「パナソニック」のバスタブや、「au」の市松模様の携帯が好きですが、最も好きなのは著書 「デザインの輪郭」 です。デザインという言葉を設計に置き換えて繰り返し読んでいますが、形の背景となるその思想にうなずくことしきりです。
日本デザイン界のトップランナーで、現在「グッドデザイン賞」の選考委員長をされていますが、気さくにお話していただけました。

今年の秋には、金沢21美で
「工芸とデザインの境目」という展覧会を監修されるそうです。

https://www.kanazawa21.jp/data_list.php?g=17&d=1736















































川上元美さん。
代表作の「BRITZ」というフォールディングチェアでは、その座り心地だけでなく折たたんだときの美しさにとても感激したものです。
川上さんには以前、金沢の東山で設計した加賀棒茶の「茶房一笑」を見ていただいたことがあり、約20年ぶりの再会でした。





















会場には海外のデザイナーも多く、カンディハウス社「TEN」を発表したM・シュナイダーさんはドイツからの参加。
「TEN」シーズは木と樹脂を組み合わせた家具で、重さのある自然素材(道産タモ)と軽い感じの工業素材の対比が、旭川らしい現代の家具という印象です。
























パリを拠点に活躍する田根剛さん、会期中に開かれた講演会では敷地に対する深い考察にもとづく設計のアプローチが独特でした。父上のご出身が能登だそうで、金沢にもご縁があると知りました。














































織田憲嗣さん(右端)は世界的な椅子研究家です。特に北欧家具に造詣が深く、あのハンス・ウェグナーとも親交が深かった方です。

私は大阪の修行時代に先生と会ったことがあり、「椅子が好きで少しずつ集めているんだ、」と伺い好きな椅子の話をした思い出があります。先生はその後も研究のための収集を続け、今ではその数1,000脚を超え、「織田コレクション」として旭川で保管・展示されています。






富山石川からも家具関係の方がビジネスとマーケティングに参加されました。
昼の見学会に対して夜は毎晩パーティーが用意され、交流の場がとてもうまくデザインされ機能していたことに関心しました。




2016/08/28

「旭川 DESIGN WEEK」 木工の街へ










































旭川に [ASAHIKAWA DESIGN WEEK] という催しがあり、地元家具メーカー 「カンディハウス」 のNさんに誘われ北海道へ。
それは、大地に足の着いた企業による町おこしのイベントでした。

旭川は人口35万北海道第二の都市で、その地の利を生かして木工の街として栄え、さらに今「ものづくりのまち」としてブランディングを始めていたのでした。

























メイン会場となる「旭川家具センター」では地元家具メーカー約50社が新作を展示、内容は手作り的なものからモダンなデザインまで様々で、旭川家具の層のぶ厚さと力量を示しています。






会場中央には世界的建築家・田根剛さんによる家具のパーツで構成されたインスタレーションが展示されています。
家具の「種」のような部品が浮遊し、このカオスから旭川の家具が生まれて行くイメージです。




田根さんは旭川で学生時代を過ごし、現在はパリを拠点に活躍する気鋭の建築家です。

近年、国際コンペで勝ち取った「エストニア国立博物館」を完成させ、東京オリンピックの「新国立競技場コンペ」では、古墳のようなスタジアム案で最終先行に残りました。

初日に開かれた講演会では、土地の歴史と深く関わるような建築の作り方とそのプロセスを紹介され、物事を原点から深く考えるその姿勢に感銘を受けました。








5日間の会期中は、東京を中心に日本各地からデザイナーや建築家など約1万人が参加。
ウェルカムパーティと田根さんの講演会をはじめ、ミラノサローネ報告会、各社の工場見学会、北海道の食の幸など、時と場所を変えて様々なおもてなしが、街を祝祭空間に仕立て上げて行きます。


http://www.asahikawa-kagu.or.jp/adw/report/index.html





2016/04/28

「石の文化」 @小松



文化庁に「日本遺産」というものがあって、昨年の「能登キリコ祭り」に引き続き、今年は県内から「小松市の石の文化」が認定されたそうだ。

小松の石と言われてもピンとこない人が多いと思うけれど、今回の認定は石にまつわる様々を時間を越えて物語に仕立て上げた、その編集力によるものかと思う。

金沢では土塀や石垣に使われる戸室石が有名だが、その他にも塀や門柱に今回の観音下の日華石をよく見かけるし、能登にも小木石というのがあって寺院の基壇などに見ることが出来る。
石川県はまさに名が体を表しているようだ。






那谷寺の近くに石切り場を見かけたのはいつだったろう。近づいてみてその神聖な気配に圧倒された。形が生まれる前のようなそれはまさに引き算の建築、負の神殿だった。




自然の中に屹立するこの垂直の壁は、人の暮らしが作った残滓にすぎない。
圧倒的な質量を持つその姿は、どこか2001年・キューブリックの「モノリス」を思わせる。





石切場近くの山中にある堂、胎内くぐりの後たち現れる。
巨大な岩盤を庇にして建てられていて、懸造り、見上げるその姿はかの投げ入れ堂を思わせる。両者共に場所の持つ大きな力を感じてそこに作られたのだろう。石や岩の持つ力。






周囲には石造アーチの橋がいくつか残っていて、いづれも小さなものだが手作りでほほえましい。

今回の「日本遺産」認定を機に思いつくまま引出しを開けてみたが、この他にも石にまつわる様々な物語がこの地域にあるに違いない。それらを発掘し編集し訪ねることは、街の大きな資源となるに違いない。